"節税"のつもりだった…「ふるさと納税」が"増税"の原因に⁉

近年、利用する人も急増している「ふるさと納税」。
各地方自治体の考案した豊かな魅力あふれる返礼品・特産物などが安く手に入り、かつ税金も一部控除になるという理由で、若者も積極的に活用している制度です。しかし、この「ふるさと納税」を活用し、”お得”を感じている人々が増加する一方で、現在は様々な問題も浮上しているのをご存じでしょうか。
多くの人が利用する”お得”や”節税?”のウラに隠れた「ふるさと納税」の詳細と浮上した問題点について、利用している方もそうでない方も、その実態を理解しておきましょう。

そもそも「ふるさと納税」の目的は?

ふるさと納税とは、2008年5月から開始された日本国内の自治体(市町村)へ寄付をすることで、その自治体の活性化や地域振興を支援する制度です。

ふるさと納税の目的は、以下のようなものがあります。

  1. 地域の活性化:
    ふるさと納税は、地方自治体の活性化を図ることが主な目的の一つです。地方の人口減少や過疎化が進む中で、地域の経済活動や地域資源の保護・育成が重要とされています。ふるさと納税を通じて寄せられた寄付金は、地域の産業振興や観光施設の整備、地域イベントの開催などに活用され、地域の活性化を支援します。
  2. 地域振興:
    ふるさと納税は地域の魅力向上や振興を目指すことも重要な目的です。特産品や名産品の紹介や提供、観光情報の発信、地域文化や伝統の継承など、地域のアピールと地域ブランドの形成に寄与します。ふるさと納税を通じて、地方の魅力を再発見し、地域への関心や交流の促進を図ることも目指されています。
  3. 人口定着や移住促進:
    ふるさと納税は、地方への人口定着や移住促進を目的とする場合もあります。地方自治体は、若者や人材の流出が進む中で、地域への人口増加や人材の確保を求めています。ふるさと納税を通じて、地方の魅力や利便性、住みやすさをアピールし、人々が地方への移住や定住を考えるきっかけとなることを目指しています。

これらの目的を達成するために、ふるさと納税制度は導入されています。

佐賀県や北海道など、一部自治体の中には実際にふるさと納税によって地域の特産物が多くの人に知られ、年間での自治体としての税収も100億円以上増加したという場所もあるほどです。(下記参照)
こういったふるさと納税によって恩恵を受け、潤う地域も紹介される中で、現在までに多くの自治体がふるさと納税制度に参入してきました。

1位北海道紋別市152億9700万円
2位宮崎県都城市146億1600万円
3位北海道根室市146億500万円
4位北海道白糠町125億2200万円
5位大阪府泉佐野市113億4700万円
6位宮崎県都農町109億4500万円
7位兵庫県洲本市78億4200万円
8位福井県敦賀市77億2200万円
9位山梨県富士吉田市72億1400万円
10位福岡県飯塚市65億円6400万円
ふるさと納税による増収自治体ランキング
参考:NHK政治マガジンー2022.7「ふるさと納税が過去最高 税収減の自治体も」
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/86955.html

「ふるさと納税」の仕組み

では、利用する私たち視点で、実際のふるさと納税の仕組みを見ていきましょう。

まず私たちが暮らす土地。これは自治体が管理しているものであり、そこで住むためにはそれぞれの自治体が指定した金額の住民税を納めています。その、自身が住む自治体に①納税するものの一部を応援したい市町村へ寄付という形で納めます。(この時の納税では、”翌年の住民税の前払い”する形です。)その寄付によって、②応援された市町村、自治体はお礼として寄付をした私たちに返礼品とをくれます。(寄付額の30%未満の価値のもの)そして翌年、③寄付額のうち2000円を超えた部分に対して先払いした住民税・その他所得税が控除や還付される(徴収される税が減る)という仕組みです。
これにより、”実質負担2000円で高価な返礼品が手に入るお得な制度”として周知されてきているのです。

ふるさと納税の仕組み 図
ふるさと納税 具体例

ここで二つ注意しておくべき点があります。

一つ目に、ふるさと納税にて寄付したことをワンストップ特例制度・もしくは確定申告にて税務署に必ず申告することです。これだけの税を寄付しました、という報告がなければ、寄付自体がなかったこととなり控除・還付はされなくなってしまいます。現在はワンストップ特例制度により、簡単に申告が可能になったため、その他の要件で確定申告をする必要がない限りは、ふるさと納税での返礼品を受け取り次第すぐに手続きを済ませてしまいましょう。

二つ目に、先払いした税などが控除・還付される際、控除には限度額があり、それは家族構成や年収によって違うため、
あらかじめ、いくらまで自身が控除されるのかを把握し、ふるさと納税を申請を行う必要があるということです。
自身の控除限度額を把握していない、もしくは別の控除申請などの併用によって、自身の控除対象となる限度額を超えた分は、控除されず還付されません。今は様々なサイトで控除上限額のシミュレーションが可能ですので、”お得”にも限度があることを理解した上で、制度を利用する前にあらかじめシミュレーションを行い、自身の控除上限額を理解しておくことが大前提になります。

ケース1 年収500万円独身の方の場合
排除上限目安 61000
ケース2 ご本人様の年収が800万円で共働きの場合
排除上限目安 121000
ケース3 年収1500万円のご家族の場合
排除上限目安 354200
ケース別の控除上限金額例

以下は総務省ホームページの「ふるさと納税のしくみ」について申告の流れを踏まえて図解したものです。
こちらのサイトには控除額の計算や目安表も明記されていますので、気になる方は合わせて確認してみましょう。

引用:総務省HP「ふるさと納税のしくみ」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_zeisei/czaisei/czaisei_seido/furusato/mechanism/deduction.html

また、ふるさと納税は制度の改正や自治体の方針によって内容が変わる場合があります。そのため、具体的な制度や返礼品については、各自治体のふるさと納税の公式ウェブサイトや窓口などで最新の情報を確認することが重要です。

そして大事なのは、この図を見てもわかるように、ふるさと納税を行うことによって本来住んでいる土地の自治体に納税する税金の一部が他の自治体へ渡されるため、自身が住んでいる自治体の税収は減り、逆にふるさと納税により寄付された地域は潤う、儲かるという仕組みになります。この部分については後半の記事で解説します。

「ふるさと納税」利用者のメリット

このように、地方自治体によってはメリットがあり、ふるさと納税を行った利用者についても様々なメリットがあります。
ふるさと納税を利用することでのメリットを以下にまとめました。

  1. 税金控除:
    ふるさと納税を行うと、所得税や住民税から寄付額の一部または全額を控除することができます。寄付金額に応じた税制優遇措置が受けられるため、納税者の税金負担を軽減することができます。
  2. 地域貢献:
    ふるさと納税は、地域の活性化や地域振興を支援するものです。自分の寄付金の使い道を指定することができ、特産品や観光資源の保護・育成、地域イベントや施設の整備などに役立ち、地域社会への貢献ができます。
  3. 返礼品の受け取り:
    ふるさと納税を行うと、自治体からさまざまな返礼品や特典を受け取ることができます。地域の名産品や特産品、観光施設の割引券などが提供されることがあります。返礼品は寄付金額に応じて異なる場合があり、自分の希望や興味に合ったものを選ぶことができます。
  4. 地域の魅力発見:
    ふるさと納税を通じて、知らなかった地域の魅力を発見することができます。特産品や観光情報を通じて地域の文化や風土に触れ、新たな地域への興味や関心を持つことができます。また、返礼品として提供される地域の特産品を通じて、新しい食文化の発見や地域交流の機会を得ることもできます。
  5. 交流の場の拡大:
    ふるさと納税は地域との交流のきっかけとなる場合があります。寄付を通じて地域との繋がりを感じ、自治体主催のイベントや観光施設を訪れることで、地域の人々との交流や地方での滞在体験をすることができます。

ふるさと納税による財源増加や地域活性を目指し多数の自治体が、より魅力的な返礼品を用意し競い合うような形となったことや、これらのメリットから、近年では「ふるさと納税」を利用する人は急激に増え、その利用金額も年々大きくなっています。

引用:総務省HP「令和4年度ふるさと納税に関する現況調査について」

しかし、あくまでふるさと納税は”寄付”の形をとっており、制度の本来の目的を鑑みても、返礼品はあくまで感謝の意味で提供されるものです。商品の購入やサービスの提供とは異なり返礼品の価値よりも地域への支援や貢献度を考慮することが大切とされています。

実際にこれだけの金額が動いているということもあり、各自治体は財源を増やすため返礼品のPRや新商品開発の競争化…。利用者はよりお得で魅力的な返礼品を安く手に入れるために…という儲けや利益を意識する形の商売的意識が市政に入り、実際にふるさと納税による赤字・黒字という税収の結果を生み出している点は非常に懸念される点でもあると言えます。

ちなみに…ふるさと納税は節税ではない!?

「ふるさと納税」=”節税”という認識の方もいますが、厳密には異なります。
一部で節税と言われる理由としては、事実として税金の控除や還付金を受けることができるためだと思われますが、細かい仕組みを見ていくと、寄付として自治体に送るお金は、翌年の税金の前払いであり、寄付額の2000円を超えた部分は上限額までの範囲内で翌年控除される形です。税額の支払い金額は変わりませんが、その代わりふるさと納税を利用すれば寄付や返礼品の獲得が安価で可能となるということです。しかし、ふるさと納税の返礼品の中にはお米・ティッシュ・おむつ・などの生活用品も多数あり、ふるさと納税を利用することによってそういった生活必需品が安価で手に入れられるので、そういった場合には十分節約の効果は得られるかもしれません。

見えてきた「ふるさと納税」の問題点

そういった部分から徐々に見えてくる、ふるさと納税の問題点。ここからはそれらの問題点について深堀りしていきます。

  1. 財政への依存度:
    ふるさと納税は自治体の財政を一定程度支える手段となっていますが、寄付金の受け入れ競争や返礼品の提供にかかる費用など、財政への依存度が高まる可能性があります。自治体の財政がふるさと納税に過度に依存している場合、寄付金の減少や制度の変更などがあった場合に財政上のリスクが生じる可能性があります。
  2. 格差の拡大:
    ふるさと納税は自治体ごとに寄付が集まりやすい特産品や人気施設が存在するため、寄付金の偏在が起こる場合があります。一部の自治体が多額の寄付金を集める一方で、他の自治体は寄付金の誘致に苦労することがあります。これにより地方自治体間の格差が拡大する可能性があります。
  3. 予算の偏り:
    返礼品の提供や寄付金の使途によって、自治体の予算が一部の事業に偏ってしまうことがあります。返礼品競争の激化によりその提供に多くの予算や労力を割かざるを得なくなり、本来の地域振興のための予算や取り組みが十分に行われない場合があります。
  4. 長期的な地域振興への課題:
    ふるさと納税は一時的な寄付に依存しているため、地域の持続的な発展や地域経済の活性化には課題が残る場合があります。ふるさと納税の寄付金はあくまで一時的なものであり、地域の課題解決や持続的な振興には継続的な取り組みや戦略が必要です。

以上が、ふるさと納税による自治体のデメリットの一部です。ふるさと納税は制度や運用の見直しなどにより、デメリットを軽減する取り組みが行われていますが、課題が残る場合も多くあります。

実際に、自治体への寄付が少ない都市部では、多くの住民からの税が地方へ流れ、都市部の自治体での税収が激減しています。
もともと住民が多く、発展した土地であるためある程度の税収があるのでは…と思う部分もあるかもしれませんが、発展した土地を維持させるための運用費や工事、サービスも、当然多く必要になります。また、都心ではない地域でも、ふるさと納税利用者の増加によって財政がさらにひっ迫している地域も多数存在します。

具体的にふるさと納税による増収・減収の自治体をランキング化した記事もあり、ここでは減収となった市区と金額を紹介します。

1位神奈川県横浜市230億900万円
2位愛知県名古屋市143億1500万円
3位大阪府大阪市123億5900万円
4位神奈川県川崎市102億9100万円
5位東京都 世田谷区83億9600万円
6位埼玉県さいたま市73億9100万円
7位兵庫県神戸市70億円
8位北海道札幌市66億3900万円
9位京都府京都市64億4300万円
10位福岡県福岡市62億円5500万円
ふるさと納税による減収の自治体ランキング
参考:NHK政治マガジンー2022.7「ふるさと納税が過去最高 税収減の自治体も」https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/86955.html

横浜市・名古屋市・大阪市の上位3都市は地方交付税の交付団体ということから流出した税収の75%は国から補填されるため、実際にこの数字の分の減収があったわけではないですが、交付団体となっていない川崎市と東京23区などは、国からの補填はなく流出分はそのまま減収になるようです。

このように、ふるさと納税の利用者や利用額が増えるほどに、数百億円という桁で税収の格差が生まれ、地方だけでなく様々な地域での財政による運用が厳しくなることが問題視されているのです。

財源の流出に困った自治体が、これ以上の財源低下を避けるための手段として出てきたのが今回の”増税”ということになります。
原因はふるさと納税のみではないにしても、これだけの税収の変動があれば一つの大きな要因として捉えられる理由も頷けます。

本来は地方の活性化・復興を目的として始まり、利用者としても地域貢献や地方の特産物が安く手に入る。という互いのメリットが考慮されたはずの制度が、反対に増税を進めてしまう一つの要因となる。だけでなく、地域の活性化・復興に繋がらず逆に返礼品などの財源使用による赤字になっている地域が存在するというそれぞれ真逆の結果を生み出している地域も多いという点は、ふるさと納税の本来のあり方とは違った意味を持つものになっていると考えられます。

ふるさと納税の今後は…?

現在も継続して行われているふるさと納税ですが、今後も本来の目的である地方自治体の活性化や地域振興のための重要な手段として位置づけるためには、制度や運用に対する改革や課題の解決が早急に求められており、改善ができなければ今後の制度運用は難しくなるのではないかと思われます。

現状として、ふるさと納税により減収となっている地域でふるさと納税を全く利用していない人にとっては、地域サービスの低下と税負担の増加の恐れという、弊害を受けるのみとなっている現状でもあり、一部からはふるさと納税をやめるべきという声が上がっているのも事実です。

以下に、ふるさと納税の今後の展望に関するいくつかのポイントを挙げます。

  1. 制度の見直し:
    ふるさと納税制度は運用開始以来、数回の改正が行われてきましたが、今後も制度の見直しや改善が進められるでしょう。特に、寄付金の偏在や格差の問題、返礼品の適正化、財政への依存度の調整など、制度の公平性や持続可能性を高めるための改革が求められています。
  2. 地域間の連携強化:
    ふるさと納税は個別の自治体が行うものですが、地域間の連携や協力が重要です。特に、地方自治体間の格差を縮小し、地域振興のための連携や情報共有を促進することが求められます。自治体同士が連携して、地域の特産品や観光資源を紹介する共同プロモーションや交流イベントなどが活発化することで、より多くの寄付金を集めることが期待されます。
  3. 持続的な地域振興への取り組み:
    ふるさと納税は一時的な資金調達手段としての側面もありますが、地域の持続的な発展には長期的な取り組みが不可欠です。寄付金の適切な使途や効果的な活用、地域資源の活性化や産業振興のための施策など、ふるさと納税を通じた地域振興の継続的な取り組みが求められます。

現状、今年も多くの人が利用すると予測される「ふるさと納税」。
今後制度としての在り方・内容の見直しや改善による大きな変化も想定されます。

「ふるさと納税」に関する様々な問題点の理解を含め、正しい認識を持って上で、今後の動向を注視し制度を活用していくことが必要かもしれません。

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