大増税の嵐で反対多数⁉岸田政権の「サラリーマン増税2023」では退職金や通勤手当も対象⁉その内容とは。
2020年にも一度、この”サラリーマン増税”という言葉は「平成30年度税制改正」によって浮上しています。その際は、年収850万円~1000万円の労働者に対し、給与所得等の控除額を減らし、課税対象の所得が増えることによって年数万円程の税負担が増えるというものでした。
今回新たに岸田政権が打ち立てている”サラリーマン増税2023”これが今、手取りが大幅に減るかもしれない緊急事態として多くの人の反対と共に大きな話題となっています。今回はその内容と時期等を詳しく見ていきましょう。

「サラリーマン増税2023」により退職金も増税⁉具体的な内容とは…
2023年6月末行われた、「政府税制調査会」では、現状の悪化している財政状況を踏まえた今後の歳出相応の税収確保などを目的として、給与や退職金、年金等に関わる税制を”是正”する案を提出しています。
この”是正”に対し、給与所得控除等による増税が懸念されていたのですが、その具体的な内容に退職金への課税、通勤手当への課税等の様々な内容が盛り込まれる可能性があることが分かり、世間に衝撃が走っているのです。
下記が現在リストアップされているとされる増税・課税対象の税になります。
- 退職金
- 通勤手当
- 配偶者控除、扶養控除
- 雇用保険上の失業手当
- 遺族年金
- 生命保険控除・地震保険料控除
- 電気自動車(EV)
- 生活保護
- NISAの譲渡益や配当→NISAの詳細についての記事はこちら
「退職金」の課税・増税の内容とは?iDeCo(個人型確定拠出年金)も対象に⁉
退職金とは長年勤めた企業を退職した際にもらえる一括の大きな所得のことですが、この所得には課税対象とならない控除額が決まっています。控除額というのは現在、勤続年数が20年以内の場合は1年につき40万円の控除、20年以降になると、1年に70万円の控除とされており、これについて今回の検討案の中で「勤続年数で控除額を変えない」案が浮上しているようです。
これは、勤続20年を超えた人の所得控除額が70万から40万円に引き下げられ、現状よりも毎年30万円分の所得が課税対象になるということです。
下記では、国税庁の参考例をもとに、【勤続年数30年/退職金2500万円】の人の場合を比較計算してみます。
*最初の800万は勤続20年までの分を(40万円×20年=800万)で計算
*所得税の税率と控除額も国税庁HPの「令和5年分所得税の税額表」を用いて計算

*最初の800万は勤続20年までの分を(40万円×20年=800万)で表記
*所得税の税率と控除額も国税庁HPの「令和5年分所得税の税額表」を用いて計算
上記の計算に基づき、控除額変更後の源泉徴収額を計算してみると
課税退職所得金額は (2,500万円ー1,200万円)×1/2=650万円
所得税額は 650万円×20%ー42万7,500円=87万2,500円
所得税及び復興特別所得税の額は 87万2,500円+(87万2,500円×2.1%)=89万822円
控除対象額 | 退職金等にかかる税額 | ||
現状の退職金控除 | 800万円+70万円×(勤続年数-20年)=800万円+70万円×10年= | 1,500万円 | 58万4,522円 |
退職金控除が変更された場合 | 40万円×(勤続年数30年)= | 1,200万円 | 89万822円 |
差額 | ー300万円 | +30万6,300円 |
そしてこれは、サラリーマンの退職金だけに関係するものではありません。iDeCo(個人型確定拠出年金)で積み立てた資金や、自営業者の退職金作りのために用いられる制度である「小規模企業共済」の共済金。こちらも60歳、65歳以降に一時金として受け取ると、退職所得の扱いとなり、退職金増税の影響を受けてしまいます。このように、退職金増税となった場合、その対象はサラリーマンや退職金だけではない、ということなのです。退職金の増税は、手取りの収入減、老後資金の減を意味するものであり、多くの人の老後の生活設計にも大きな影響を与えることになると考えられます。
「通勤手当」現状は非課税?公共交通機関とマイカーの違い
通勤手当は従業員の自宅から職場・オフィスまでの通勤にかかる費用を支給する手当を意味します。
現状の通勤手当は、電車やバスなどの公共交通機関を利用した場合と、マイカー通勤(距離別)の場合とで、それぞれ非課税対象の限度額が決められておりその値を超えると課税対象になります。
1カ月あたりの非課税の限度 | |
公共交通機関利用 | 15万円まで |
マイカー・自転車通勤 (片道2km以上10km未満) | 4,200円まで |
(片道10km以上15km未満) | 7,100円まで |
(片道15km以上25km未満) | 12,900円まで |
: | : |
(55km以上) | 31,600円まで |

通勤手当の公共交通機関利用において、電車のグリーン料金は最も経済的かつ合理的な通勤経路および方法のための料金とは認められないため、非課税の対象には含まれないようです。
今回の「サラリーマン増税2023」の中で是正対象としてリストアップされてはいるものの、具体的にどのように変わるかの検討内容は明示されていないため、今回は、現状このような基準で非課税とされていることを紹介させて頂きました。
「通勤手当」と「交通費」の違い
通勤手当は”通勤”に関わる「給与」の勘定科目であり、交通費は営業や出張等、企業が事業活動に必要となる経費「交通費」の勘定科目にあたるため全額非課税です。そのため交通費には、所得税はかかりません。
「配偶者控除」と「扶養控除」とは?違いはなに?
配偶者控除と扶養控除は、日本の所得税制度において家族の経済的な負担を軽減するための控除制度です。
紹介するのは現状の配偶者控除・扶養控除ですが今後変更があるかもしれませんので、現状の内容も確認しておきましょう。
配偶者控除(配偶者の扶養控除)の内容とは
配偶者控除は、納税者が結婚している場合に配偶者の収入に応じて適用される控除です。控除の額は、配偶者の収入によって異なり、共通する条件としては「控除を受ける納税者本人の所得合計額が1,000万円以下」「民法上の配偶者」「配偶者が納税者と生計を一にしている」「青色申告または白色申告の事業専従者ではない」などがあります。

扶養控除の内容とは?
扶養控除は、納税者が自分以外の家族を経済的に支えている場合に適用される控除です。
扶養対象となるのは以下の条件を満たす場合になります。扶養控除について、配偶者は対象外です。
- 配偶者以外の親族や里子、市町村長から養護を委託された老人
- 納税者の扶養対象者であり、生計を一にしている
- 年間の合計所得金額が48万円以下(給与のみの場合は給与収入が103万円以下)
- 青色事業専従者給与を支払う青色事業専従者および事業専従者控除を受ける白色事業専従者
これらの控除は、結婚や家族の構成によって異なるため、個々の状況に合わせて適用されます。

退職後に無職期間がある場合は貰わないと損!雇用保険上の「失業手当」
失業保険とは、公的保険制度の一つで、正式には「雇用保険」と呼ばれており、失業した場合や自己都合での退職にあたり、「失業手当(基本手当)」を受給することができるというものです。雇用保険は、週20時間以上の労働・31日以上の雇用が決まっている場合は加入する義務があり、給与明細を見ると、毎月一定額の雇用保険料を支払らっていることが分かります。
失業手当は、失業した人々が安定した生活を送りつつも、1日でも早く再就職をするための生活支援として給付され、新しい職に就くまでの経済的支えとなる重要な制度です。
こちらの制度を利用して受給できる額には、前職の給与・勤務年数等が関係するため個人差も大きいですが、今後課税や支給額の減額等の可能性があることを考えると、失業手当の支えを基に再就職のために奮闘する人々にとっては苦しい部分もあるかもしれません。
「遺族年金」の所得税と相続税は…?課税あり?なし?
遺族年金は、国民年金または厚生年金保険の被保険者・過去に被保険者であった方が亡くなった際に、その遺族が受け取ることのできる年金のことです。
遺族年金には、「遺族基礎年金」「遺族厚生年金」の2種類があり、亡くなった方の年金の加入状況等によって、いずれかまたは両方の年金が支給されます。また、亡くなった方の年金の納付状況・遺族年金を受け取る方の年齢・優先順位などの条件をすべて満たしている場合に、遺族年金を受け取ることができるようになっています。
”遺族の年金を引き継ぐ”、というところで気になる税金ですが、現状は所得税も相続税もかからない非課税対象となっています。
こちらも老後資金や生活基盤に関わるところなので、改定があるとすれば老後生活に大きな影響もあるかもしれません。
「生命保険控除」・「地震保険控除」で税金が減る
生命保険や地震保険に加入し、その保険料を支払っている場合に、年末調整や確定申告によって「生命保険料控除」や「地震保険料控除」を受けることができる制度です。控除により、一度納めた所得税が還付金として戻ってきたり、これから支払う所得税や住民税の負担が軽減されたりします。
保険内容等によって、控除の上限金額は変わりますが、死亡保険や医療保険だけでなく、学資保険や個人年金保険、民間の介護保険の保険料等も生命保険料控除の対象になります。
これらの控除を受けるためには、自営業の方は 確定申告・会社員の方は年末調整にて保険料控除証明書を提出する必要があります。
税制優遇で税金も安いと定評の電気自動車(EV)も…
少しずつ利用する人も増えている電気自動車。その理由には自動車を購入・利用するにあたってかかる費用・維持費等にも大きな理由があり、今回はコスパがよいとされる電気自動車の税に着目して見ていきます。
税の種類 | 税を納めるタイミング | 納付先 | EVにかかる税金 | 普通車にかかる税金 |
環境性能割 (旧・自動車取得税) | 車の購入時 | 自治体 | 0円(非課税) | 車両性能による |
自動車重量税 | 新車登録時と車検(継続検査)時 | 国 | 0円(エコカー減税による免税) 2回目車検時以降2万円(1.7tのEV) | 1.7tエコカー減税✕ →32,800円 |
自動車税 (自動車税種別割) | 毎年1度 | 自治体 | 新車登録翌年度分のみ6,500円 (グリーン化特例による免除) 2年目以降25,000円(地域によって優遇あり) | 車両排気量による (2.5万~11万円) |
一般の自動車と比べて、税制優遇の措置も多く撮られている電気自動車は、エコカー減税やグリーン化特例等によるものや、車両の排気がないことによる自動車税が低く、維持費なども抑えられること、またガソリンと比較して電気による燃料価格が安いことで利用者も年々増えているところと思われます。
一般のガソリン車はその性能や排気量等によって税負担額が変わるため税額負担額の比較は難しいですが、税負担の割合%でみると以下のようになります。


引用: 東京電力EVDAYS 【2023年度】電気自動車(EV)の税金はいくらオトク?税制優遇の具体例を紹介ー説明図

EVとガソリン車の年間維持費の比較 図
上記のように、車の維持費もEVとガソリン車で比較すると数年単位の長い目で見ても、その維持費は大きく異なります。
車の税に関しては、比較的税負担が軽いEV車が増税の狙い目…とされている可能性もあります。しかし数カ月前に一度「自動車走行距離課税」という、車の走行距離に応じて課税を行うという新制度の話題があり、今のところは実際に施行されてはいませんが、今回の税制改革が予測されるにあたってついに車の走行税が始まるのでは…という懸念も拭いきれないところです。
サラリーマン増税はいつから?まとめ
大増税が懸念される今回のサラリーマン増税2023はまだ検討の範囲を出ず、その時期や詳細も決定されたものではありませんが、岸田総理自身が現状のサラリーマンなどの給与所得者の税制について「相当手厚い仕組み」と認識している点からも、近いうちに増税・課税方針は実行されていくだろうということが伺えます。
「相当手厚い」というのは、他の主要国と比較すると日本のサラリーマンは優遇されてるということのようですが、国民の主観で考えれば近年の急激な増税や物価高騰、少子高齢化による年金受給の懸念等により、生活苦や老後生活の不安を抱える人が増加している中で現状が”手厚い”と思う人がどれだけいるのでしょうか。
自身での老後資金対策や所得倍増を進めるよう推進し「非課税枠での投資」と盛大に歌っていたNISAでさえも、その譲渡益や配当について是正の検討リストに含まれている点は、政権運営の軸が一体どこにあるのか大いに疑問を感じてしまうところです。
私たちの将来的なの生活にも大きく関わるこの税制問題については、今後も最新を追っていきたいと思います。